着任のご挨拶

令和6年1月4日
加納雄大 特命全権大使
   新年あけましておめでとうございます。
   このたび、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)日本国政府代表部特命全権大使に任命された、加納雄大(かのう たけひろ)です。昨年末にパリに着任しました。
   ユネスコは多くの日本人にとって馴染みのある国際機関であり、日本政府代表の任務にあたることを大変光栄に思います。
 
「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」
 第二次世界大戦終結直後に採択されたユネスコ憲章の、有名な一節です。
   このユネスコ憲章の精神は、戦後復興と国際社会への復帰に取り組む多くの日本人にとって、希望のメッセージでありました。独立を回復した1951年に、日本は国連加盟に先立ってユネスコに加盟しています。
   憲章採択から80年近くが経った現在、残念ながら、欧州、中東、アフリカ、アジアの各地で様々な紛争が顕在化しています。冷戦終結後に確立することが期待された、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が、グローバリゼーションへの反発や、民族や宗教の違いに根差した歴史的対立が先鋭化する中で、大きく揺らいでいる状況です。
   このような時代においてこそ、国連憲章、ユネスコ憲章の精神に立ち返り、国際協調を立て直す外交努力が求められています。その中で、ユネスコの果たす役割に対する期待もかつてなく高まっていると言えるでしょう。ユネスコは、その名の通り、教育、科学及び文化を通じた諸国民の間の協力を促進することにより、平和及び安全に貢献することを目的とする国際機関です。日本は一貫してその活動を支えてきました.
   教育分野における途上国支援はユネスコが長年取り組んできた活動です。人づくりを国づくりの基本としてきた日本はこれを積極的に支援しています。
   気候変動や水管理、人工知能(AI)など、科学的知見に基づく国際協力が不可欠な課題が増えています。ユネスコはそのための重要なプラットフォームであり、日本は国際規範づくりを含む様々な協力に関与していきます。
   世界遺産をはじめとする文化面での国際協力は、最もよく知られたユネスコの活動です。日本の文化をより良く世界に理解して頂くための枠組みでもあります。現在、世界文化遺産に「佐渡島の金山」、無形文化遺産に「伝統的な酒造り」、世界の記憶に「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」「広島原爆の視覚的資料—1945年の写真と映像」を申請しており、本年の登録実現に向け、その意義をしっかりと説明してまいります。同時に、世界各地でユネスコが行っている、紛争等で危機に晒されている文化遺産の保護・修復活動を、積極的に支援していきます。
 
   ユネスコ憲章はこうも謳っています。
「平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない。」
   この精神を胸に、ユネスコの場において積極的な日本外交を展開して参ります。
   ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。