ユネスコで活躍する日本人職員 後藤 尚紀(ごとう・なおき)さん

令和6年3月29日
M.Goto 戦略企画局 ジュニアパートナーシップ専門官    後藤 尚紀さん
  • これまでのご経歴と現在のお仕事の内容についてお教えください。
 2018年より、 戦略企画局パートナーシップ部門に勤務しています。現在は、任意拠出金を提供してくださる政府ドナーとの連携に携わっています。国連専門機関であるユネスコは、国連からは独立した機関として、ユネスコ加盟国からの義務的な分担金と、特定の目的のために自発的に提供される任意拠出金によって運営されています。特に任意拠出金は、ユネスコが喫緊のグローバルな課題に取り組むために必要不可欠であり、パートナーシップ部門はその資金調達を調整する大切な役割を担っています。
 着任してからは、主にスペイン、インドネシア、パキスタンといった国々の信託基金の管理を担当してきました。政府ドナーの窓口となり、相手先の希望、ユネスコの優先課題、および地域事務所から伝わる開発国のニーズを照らし合わせながら、持続可能で影響力のあるプロジェクトを開発し実施する支援をしています。
また、政府ドナーに関わらず、地域事務所レベルで交渉が可能な様々な基金からの資金調達を強化できるよう、地域事務所の能力開発に携わったり、シードマネーを本部から提供する際の投資収益率分析やドナー分析を担当しています。
 
  • ユネスコ(国際機関)でのお仕事を目指されたきっかけをお教えください。
 以前から国際機関で働くことの憧れはあったものの、きっかけは、ヨーロッパで修士課程を留学中にお世話になった教授から、ユネスコ主導の人文会議の運営ボランティアを紹介していただいたことです。それまでは、ユネスコは文化機関というイメージでしたが、ユネスコ職員と交流しながら「人の心の中に平和のとりでを築く」というユネスコの理念に触れ、教育文化科学振興はその理念達成のツールであるということを知りました。理念の崇高さに感銘を受けたと同時に、文化だけでなくユネスコ全体に関われるような場所で働きたいと思い、今のパートナーシップ部門に応募しました。
 
  • ユネスコで働くやりがい・大変さはどの様なところにあるのでしょうか?
 ユネスコで働くことのやりがいは、多岐にわたるプログラムに関わることができる点にあります。今年で五年目になりますが、毎日が学びの連続で、新しい知識に触れることができるのは非常に魅力的です。例えば、私が担当しているスペイン信託基金のプロジェクトとしては、カナリア諸島付近での侵入種に関しての海洋学的な取り組み、戦時下のウクライナにおける国内文化専門家の能力を開発・強化する活動、障害を持つ人々の教育権を促進するための南米地域での協力推進など、縦方向の専門性と横方向の多様性を併せ持つ点が、プロジェクト全体を調整する立場として非常に面白いと感じています。
 一方で、多くの重要なプログラムを抱える組織であるため、優先順位の調整や全体の動向を常に把握しておく必要があり、その点では大変さも感じます。
 
  • これからユネスコでの勤務を目指す方へのメッセージをお願いいたします。
 現代の複数の危機が重なる難しい状況の中で、私は先に述べたユネスコの使命「人の心の中に平和のとりでを築く」という言葉をよく思い出します。また、人道的危機、気候変動危機など、一つの角度からだけで取り組むことのできない課題に直面する昨今、ユネスコの持つ学際性が以前にも増して重要であると私は信じています。
 一方、これほど多岐にわたる専門分野を比較的少数の正職員で運営しているユネスコは、国際機関の中でも稀なケースだと思います。そのため、自分の専門にあった公募の競争率が高く、職を得るのは容易ではありません。私自身、有期の正規雇用を更新する形で今まで勤務してきました。キャリア形成や人生設計においてリスクは伴いますが、それでも、まずは早期にユネスコの事業に触れることをおすすめします。インターンシップ、コンサルタントなどの非正規職、またJPO制度を利用した有期派遣などを経験することが、将来的に正職員として長期的に働くための重要なステップとなり得ます。また、ユネスコが主催する会議やイベントに参加し、積極的にネットワーキングを行うことで、貴重な機会の情報をいち早く掴むことができるかもしれません。