ユネスコで活躍する日本人職員 日下 高徳(くさか・たかのり)さん

令和6年3月29日
日下 高徳さん ユネスコ教育局ESD課 日下 高徳さん
ユネスコ/日本ESD賞
  • これまでのご経歴と現在のお仕事の内容についてお教えください。
 私は、2018年に文部科学省に入省し、5年目の2022年10月から、文部科学省からの派遣という形でユネスコでお仕事をさせていただいております。文部科学省では、最初の2年間は高等教育局国立大学法人支援課にて、国立大学法人を所管する部署にて業務調整や法律・政令改正に携わりました。その後スポーツ庁国際課に異動し、スポーツを通じた国際協力、国際競技大会の開催支援、そして何より東京オリンピック・パラリンピックに関する業務にも携わりました。その後文部科学省の国際課に異動し、半年間ではありましたが、G20教育大臣会合や、条約審査等の業務に携わりました。
 現在は、ユネスコ教育局のESD(Education for Sustainable Development)課で勤務をしております。ESDとは、ESDとは、現在世界において、人類の開発活動に起因する様々な問題(気候変動や貧困の拡大等)を自らの問題として主体的に捉え、人類が世代を超えて恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組むことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う教育活動のことを指します。つまり、持続可能な社会の創り手を育む教育のことを指します。この理念のもと、SDGsの各目標とESDの強い結びつきを意識しながら、世界各国でESDを推進するための様々な業務に取り組んでおります。特に私は、「日本ESD賞」という日本政府の基金に基づくプロジェクトに携わり、世界各国の様々なESDのグッドプラクティスを選考・表彰し、コミュニケーションツールとして世界に発信する業務を担っております。それ以外にも、ESD-NetというESDを推進する国・機関・人々のネットワーク構築にも携わり、昨年12月末には東京でその第1回世界会議を開催し、ESDの世界的な推進を加速させるきっかけ作りに貢献できたことは鮮明な記憶として残っております。
 
  • ユネスコ(国際機関)でのお仕事を目指されたきっかけをお教えください。
 私は元々国際機関で働きたいという気持ちはずっとありました。初めて海外で生活をしたのが高校生の時にイギリスの高校に2ヶ月交換留学をした時で、その時から、自分と生活や文化の異なる人々とコミュニケーションを取ることに楽しさを感じていました。その後、大学で国際関係論を学び(1年間イギリスの大学に交換留学にも行きました)、大学院では法律を学び、その過程で様々な国で様々なプログラムに参加する中で、漠然とではありますが、多様な人が集まる国際機関で仕事がしてみたいという気持ちが強くなりました。特にJICAのボランティアでウガンダで野球普及活動に従事した経験とメキシコで1年間生活した際の経験が最も影響があったかと思います。ウガンダでは指導対象は大半が子どもたちでしたが、難民の子どもたちを指導する機会が多く、野球を通じて子どもたちが日に日に成長をしていく姿を目の当たりにしたことは大きな衝撃でした。メキシコでも孤児院でボランティアをし、一人ひとりの子どもたちと日々向き合う中で変化していく子どもたちの姿を見ることにやりがいを感じていました。
 こうした経験の中で、人の人材育成に携わりたいという気持ちが強くなり、紆余曲折を経て御縁があり文部科学省に入省いたしました。入省後、現在のユネスコのポストがあることを知り(しかも若手のうちから派遣してもらえるということも含め)、なかなかない機会、かつずっと働いてみたかった国際機関でのポストなので、人事の方に事あるごとに国際機関への派遣を希望していることをアピールし、5年目で派遣してもらい今に至っております。
 
  • ユネスコで働くやりがい・大変さはどの様なところにあるのでしょうか?
 ユネスコで働くやりがい、楽しさは、何より多様性にあるかと思います。職員の国籍も本当に様々で、人種や文化背景の異なる人々と毎日一緒に仕事をすることが純粋に楽しいです。またユネスコは加盟国が194カ国と多く、業務内容が世界全体を見据えた多角的な視点を求められる点もやりがいを感じます。私の所属するESD課は皆が仕事に対して誇りを持ち、メリハリを持ち、チームでしっかり仕事をするので、安心感と緊張感を両方バランスよく持って日々仕事に臨めることは本当にありがたい環境だなといつも実感しております。フランス、パリという独特な環境の中で住んでいることだけでもありがたいことなのに、さらにずっと行きたかった国際機関という環境も相まって、日々の生活に対する感謝の気持ちも非常に大きいものがあります。
 ユネスコで働く大変さは、上述の多様性の裏返しになるかもしれませんが、一つのコンセンサスを取ることが難しい、あるいはそこまでのプロセスに時間がかかるということが挙げられるかと思います(加盟国の会議だけでなく、組織の中での事務手続きも含めて)。ですが、これは大きな国際機関としては避けては通れないプロセスだとは理解しているので、そのように時間がかかるということを理解したうえで、あらかじめ計画的に行動し、忍耐力を持って粘り強く仕事に取り組み必要があることは重要だと日々実感しております。そして、当然ながら予定通りいかなかったり、急な対応が発生するようなこともありますが、そういった状況でもチームや上司と相談しながらできることから解決していく働き方は、大変さもありますがやりがいもあります。
 
  • これからユネスコでの勤務を目指す方へのメッセージをお願いいたします。
 ユネスコや国際機関で働いている人の話を聞くと、皆さん様々な経験を経て現在のポストに就かれているということがよく分かります。つまり、目指す場所までへの道のりが本当に千差万別だということです。国際機関やユネスコを目指すにあたって色々な方のお話を聞かれ、それらを参考にしつつ、自らがやりたいこと、進みたい道をその都度その都度直感レベルで進んでいれば、様々な御縁がきっかけとなり、目標とする場所に到達できるのではないかと実感しております。私もまさかこのような形でユネスコに赴任することになるとは全く思っていませんでした。皆様のそれぞれの想いが実を結ぶことを心よりお祈りいたします。