ユネスコで活躍する日本人職員 塩川 裕子(しおかわ・ひろこ)さん
令和6年4月11日
- これまでのご経歴と現在のお仕事の内容についてお教えください。
文部科学省からの出向という形で、現在、ユネスコ文化局の世界遺産センター(世界遺産条約事務局)にて、世界遺産の保護・保全等に携わる仕事をしています。世界遺産は登録時に注目されることが多いかと思いますが、登録はスタートであり、いかにその価値を守り伝えていくか、ということが重要です。
私は、アジア地域の8カ国を担当しており、日々、それらの国々や世界遺産条約の諮問機関(ICOMOS/ICCROM/IUCN)、ユネスコの地域事務所などとのやりとりを通じて、定例的なモニタリングに掛かる業務や様々な問い合わせに掛かる対応を行うなどの業務に従事しています。
また、世界遺産委員会という会議が通常、年に1度開催されるのですが、その会議にかかる業務が大きな割合をしめています。世界遺産委員会は、委員国21か国から構成されており、世界遺産センターはその事務局としての役割を果たしています。世界遺産委員会では、世界遺産一覧表への新規の登録の可否の決定を行うだけでなく、保全状況の審査を行っており、事務局が諮問機関と協同で、レポートの作成など行っています。
- ユネスコ(国際機関)でのお仕事を目指されたきっかけをお教えください。
幼少期から、世界中の絶景や、素晴らしい建造物をメディアや写真を通して見ることが好きで、いつかこういった素晴らしい場所に行ってみたい、自分の目で実際に見てみたい、とすごく興味を持っていました。
そして、大きくなるにつれそういった世界中の素晴らしく価値のある場所や建造物が、多くの場合、「世界遺産」と呼ばれていることを知るようになりました。ただ、その頃は、そういった“人類共通の宝”は、未来永劫に存在するもの、と信じて疑わずにいたのですが、その認識を変えさせられたのは、アフガニスタンにあるバーミヤンの大仏破壊のニュースでした。TVから流れる、巨大な大仏が跡形もなく爆破された映像が子供だった私に与えた衝撃は凄まじく、そのときに世界遺産がなくなりうることを学んだ瞬間でした。それをきっかけに、世界遺産には危機遺産と呼ばれる存続の危ぶまれる状態にある資産があることを知り、また同時に、それを防ぐために働く人々がいることを知りました。その時、誰かがそういった資産を守るための仕事をしているなら、誰よりも私がやりたい、と心に思ったことを覚えています。昔から一貫して、そういった人類にとっての宝を守りたい、という気持ちだけは、誰にも負けないくらい強くもっていると自負しており、それがすべての原動力になっていたと言えるのかなと思います。
そういった訳で、進路や就職といった岐路に立った際、将来何をしたいか、と考えたとき、どうしても自分の中で譲れない軸だったのは、どのようにしたら、世界遺産の保護・保全に携わることができるのか、ということでした。やはり「世界遺産」といえば、はじめに頭に浮かんだのが「ユネスコ」であり、これこそがユネスコ世界遺産センターを志すきっかけでした。
- ユネスコで働くやりがい・大変さはどの様なところにあるのでしょうか?
私の場合、もともと世界遺産の保護保全に携わりたいという思いをずっと持っていたため、様々な仕事がありますが、どんな仕事であれ世界遺産に何かしら関わることが出来ているということが、何よりのやりがいになっています。
様々な業務の中でも、特に世界遺産委員会に関わる業務のインパクトが大きいと感じています。上述した通り、世界遺産委員会では、保全状況の審査を行うため、事務局が諮問機関と協同で、レポートの作成を行います。保全状況について課題のある世界遺産それぞれについて、State of Conservationというレポートが作成されます。そのレポートは、締約国から提出された保全状況に関する報告や、様々な情報(締約国に信憑性を確認したもの)に基づいて、現在の保全状況、課題について要約し、世界遺産センター・諮問機関による分析及び結論をまとめたうえで、当該締約国に対する勧告案を作成します。締約国から提出された膨大な資料や様々な情報を基に、現在の保全状況を多角的に分析し、その世界遺産の保全状況を改善するために締約国が取るべき行動を「勧告(recommendation)」という形でまとめるのですが、自分が執筆したレポート・勧告案が(勿論諮問機関との折衝・ユネスコ内での決裁を経て)世界遺産委員会で採択された際はとても感慨深いものがありました。こういった業務を通じて、少しでも世界遺産の保護保全に寄与することが出来ているなら、私にとっては何よりも意義のある仕事と感じています。
また、ユネスコでは、総会(General Conference/2年に1度)執行委員会(Executive Board/年に2度)をはじめ、様々な会議が開催されています。そういった国際会議などを傍聴することで、世界中の国々の発言を聞き、それぞれの立場を知ることが出来るということも、国際機関ならではの経験だと思いますし、ありきたりではありますが、自分の視野が広がる経験が多くできる場所であると思います。
- これからユネスコでの勤務を目指す方へのメッセージをお願いいたします。
ユネスコ、国際機関での勤務経験から感じたことは、言語の違いはあるものの、仕事をする上での基本は場所を問わずに共通しているということです。
自分に何が求められているのかを把握し着実にこなすこと、特にコミュニケーションの重要性は感じています。また、フランスでの生活を含めて、様々な課題や物事への対処が必要なので、常に柔軟性を持ち、様々な状況を受け入れる器用さが、大事なのではと感じています。